レトロ印刷 同人誌制作全記録

2024年5月5日、SUPER COMIC CITY30 day2―――。
1冊の漫画同人誌が発行された……。

「親愛なる玉森へ」
変形A5。ミシン綴じ。本文16ページ。1色~3色刷り。
古書店街の橋姫という激おもしろBLゲームの二次創作同人誌である……。

今回は入稿難易度最高峰・レトロ印刷中綴じ製本に登頂チャレンジしたオタクの全記録をまとめたいと思います。

制作環境

使用ソフト:CLIP STUDIO PAINT EX
(EX推奨)

※レトロ印刷様では利用規約により、成人向けの本は作れません。
また、二次創作は権利元のガイドライン等を確認の上、自己責任でご利用ください。

【コラム】古書店街の橋姫とは?

大正時代を舞台に、友人を死から救うための3日間を描いた激おもしろBLゲーム(PC・switch・PS vita・スマホ版などいろんな媒体で遊べる)。
今回の水上×玉森で描いた水上が、その”友人”である。
玉森くんはタイムリープの力で何度も3日間をやり直し、水上くんを死から遠ざけようとするが……。
――水上くんの死は自殺なのか、殺人なのか?
――そもそも殺人鬼は、本当に実在するのか?

全ルートでぶっ飛び! 大正オカルトミステリ~!
(読み物として面白すぎ!?)


レトロ印刷って?

まずは、「レトロ印刷って何がそんなに違うの?」って方のために、ちょっとした説明を……。
通常の印刷所はCMYKの4色を用いて表現しますが、レトロ印刷様ではリソグラフ印刷という手法で印刷を行います。
これは、シルクスクリーンに近い印刷方法なのですが、シルクスクリーンってなんだっけ?って方は版画っぽい仕上がりになると思えばいいです。
つまり、CMYKの4色ではなく、自分の選んだインクの色で、n色刷りができる。ということです。

レトロ印刷様の説明ページ▶https://retroinsatsu.com/about/

超簡単にまとめると、版ズレやカスレがエモい!のが特徴で、
発色(特に蛍光系)が超良い!のです。

ただし、以下に挙げるようなデメリットもあります。

  • 版ズレ(1~2mmは標準)が起こるのはデフォ。
  • ベタ面はムラが出やすい。
  • インクの発色が良いため、画面の色と全く違う仕上がりになる可能性がある。
  • 混色したい場合は版分けがちょっと難しい。
  • 手で擦るとインクが移る。

冊子をつくる場合、ここに、

  • 面付けを自分で行わなくてはいけない。(中綴じの場合)

が加わってきます。
これが同人誌入稿最高峰とした所以です。

ただ、慣れればシンプルな作業ではあるので、コピー本制作などで経験したことがある方はそこまで心配しなくていいかもしれません。
それでも一応原稿作業時間とは別に、3日程度の原稿整備期間をとるのをオススメします。
同人誌制作自体が初めてでレトロ印刷(中綴じ)は厳しい道のりなので、
まずはフライヤーや名刺から作って多色刷りや入稿に慣れるのがオススメです。

【コラム】レトロ印刷の中綴じ本のここがすごい!

「こんなに面倒なのになんでわざわざ……」と思う方もいるかもしれませんが、
リソグラフ印刷の特徴を知って工夫をすれば、コスパに優れたいいものを作れるのです。

例えば、納期は概ね5~6日後発送
これは繁忙期でも変わりません。
(※会場直接納品には対応していないので、イベント合わせは実質6~7日と見てください。)

また、ミシン糸は30色から選べて、のりなし製本(安くて早い方)の場合は表裏で色を変えることができます。追加料金はありません

極めつけに、インクの色や紙を1ページごとに変えることが出来ます
実際は、同じ面に面付けされているページ単位になるのですが、こちらも追加料金ありませんので、
うまく使えばシーンの雰囲気をガラリと変える表現が可能になるのです。
※1冊のうちで何回も紙種とインクを変える場合は、台割り表も制作することが推奨されています。今回の記事では扱っていません。

「印刷で遊ぶ。印刷と遊ぶ。」
まさにそんなレトロ印刷様のキャッチコピーが光りますね!!!
(レトロ印刷の犬です。)

また、みみちい話にはなるのですが、リソグラフ印刷は大量印刷に強いため、
部数が増えてもオンデマンドやオフセットほどの原価上昇を起こしません。
元々そこまで高くないですが、刷れば刷るほど割安になる印象です。
同じミシン綴じ製本で比べるなら、80部くらいからはレトロ印刷の方が安く刷れるんじゃないかなと思います。(特にわら半紙を使う場合は割安です)
この辺は仕様で大きく変わってくるので、なんとも…ではありますが……!


資料入手

「レトロ印刷で印刷物を作りたい!」と思ったら、まずは資料を入手しましょう。

まずは「あそびかたろぐ2」
https://jam-p.com/?pid=167794337
こちらは紙や印刷見本を含む、包括的なレトロ印刷セットです。
かなりのボリュームがあって見ているだけでも面白いです。
レトロ印刷を使いたい人全員のバイブルです。

それから「コウハン!」
https://jam-p.com/?pid=170127610
中綴じ本をつくる人のマスト本です。
前半が漫画(見本として使えます)、後半が中綴じ製本向けの詳細なガイドになっています。
漫画原稿作りではこれを見ながら戦うことになります。

あるとうれしいのが「JAMぷれ」
https://jam-p.com/?pid=170111355
どちらかといえば、ポスカや名刺を作りたい人向けの本です。
「なんか高いな…」と思っていたのですが、たくさんの印刷見本現物がついてきてワクワクします。
また、唯一レトロ紙Aの製本された姿を見ることができるので、漫画描きさんも買っておいて損はないです。
後半には製本ガイドがありますが、微妙に「コウハン!」と齟齬があって混乱するので、
製本面では「コウハン!」に従って、印刷見本・おもしろ印刷物としてみるのをおすすめします。

あとはインク色を変える予定があるなら、カラーチャートとかも参考になるかと!
あそびかたろぐ2に収録されているインクチャートは小さくてベタ面の想像がし辛いので……。

2000円~3000円ほどかかってしまいますが、かなり創作意欲を刺激されるので画集みたいな感覚で買ってくださいまし……!


計画(ネーム~仕様決め~概算見積もり)

ネームを切ってページ数がだいたい決まった段階で、見積もりを出します。
早めに見積もりを出してもらうのは、レトロ印刷の原稿サイズが特殊だからです。
よって、原稿の本作業を始める前に、予算感を知ってレトロ印刷を使うか使わないかを決めなくてはなりません

レトロ印刷は、A5・B5といった規定サイズではなく、独自のS・M・Lの枠を設けていますhttps://retroinsatsu.com/order/book/nakatoji

A5:210mm×148mm
Mサイズ最大:190×138mm

B5:257×182mm
Lサイズ最大:277×200mm

同人誌印刷でよく使われるA5やB5は全てLサイズに含まれますが、A5サイズはLよりむしろMサイズに近いです。

A5サイズにしたいがために無理やりLサイズで頼むとだいぶ割高になってしまうため、
Mサイズ最大(A5より一回り小さい)にした方がコスト面でのバランスが取れます。

Mサイズて小さすぎないかと心配したのですが、A5冊子と並べてもそこまで違和感のない可愛らしい冊子ができましたので、
「シリーズものの続きだから絶対に同じ大きさにしたい!」などの特別な理由がなければMサイズに切り下げたほうが無難です。

中綴じミシン製本(のり無し)
仕上がり190×138mm(Mサイズ受付)
100冊
表紙+遊び紙+本文16P(4枚)

表紙: [厚紙] 富士わら紙 3/0
本文:[ペラ紙] レトロ紙 A 2/2

遊び紙:[中厚紙] 里紙 あさぎ 0/0

表紙:トレーシングペーパーカバー

とりあえずページ数がほぼ確定したところで、ざっとこれで見積もり依頼をしました。
1部あたり250円いかないくらいの価格でしたのでいけると判断し、ここを基準点として原稿をすることにしました。
納期の数え方も自信がなかったので訪ねたところ、「5日納期なので〇〇日到着なら〇〇日までの入稿受付になります」みたいな感じで教えてくれました。

イベント合わせで本を作る方に注意ですが、レトロ印刷はイベント会場への直接搬入を行っていません
一度自宅に送ってもらってから自力搬入or宅配搬入の手続きをする必要があります。
(大阪近郊にお住まいの方は取りに行くことも可能です)
どちらにせよ、直接搬入の印刷所と違って時間がかかりますので、+1日多めに見ておきましょう。

【コラム】見積もり内訳について

レトロ印刷において最も高く付くのは、紙自体の値段の高さです。
例えば今回、本文を「レトロ紙A」にしていますが、これに「わら半紙」を使用すると2割程度割安に、特殊紙である「里紙」を使うと4~5割程度は割高になるものと思われます。
一方、表紙については標準が厚紙である上、1部につき1枚しか使わないため、特殊紙を用いても割高にはなりづらい傾向があります。

インク代についてもそもそもリソグラフ印刷が大量印刷向きであるため、普通の印刷所ほど大きく膨らんでいかない印象なのを考慮しつつ、
他の印刷所とも比較しやすいのでとりあえず100で見積もってもらっています。

では色数はというと、1色1面に付き800円~1000円(100部の場合)前後の加算ではないかと考えていますが、やはりこれも本文のページ数が多い場合はその分加算されていくことになります。

遊び紙の値段は、JAM(レトロ印刷の系列の会社です)で販売している紙の値段とほぼ一緒(一緒?)かと思うので、その辺で予想が付きます。

よって、レトロ印刷の仕様においては、サイズ・ページ数・部数の次に、
本文の紙種→本文の色数が価格に響いてくる重要な要素となっています。
この辺の要素を確定させてから見積もりを出せば、本注文までに細部の仕様を変更しても予算を大きく外すことはないかと思います。

JAMのサイトを深堀りすると、お見積りに関する詳細記事が残っていたりします。
https://jam-p.com/blog/book_price_guide/
今はここより全体的に割高になってしまっていますが、何部でいくらになるという詳細がわかる貴重な記事なので、見ておくと予算感もつかみやすいです。


ではここから、実際にクリスタでの原稿づくりをしていきます~!
前座がなが~い!!!

原稿作りへ……

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